「乳糖不耐症」って何?ヴィーガンとカルシウム

カルシウムの代名詞といわれ、学校給食でも推奨されている牛乳ですが、一方で「おなかがゴロゴロするから好きではない」といった話も耳にします。こうした症状は一般的に『乳糖不耐症』と呼ばれており、今年、第62回グラミー賞を受賞したビリー・アイリッシュさんがヴィーガンになった理由の一つでもあると言います。では、乳糖不耐症やヴィーガンの方は、どのようにカルシウムを補給したら良いのでしょうか?

 その前にまず、牛乳を飲むことで起こる乳糖不耐症とは何なのかを解説します。

 乳糖不耐症とは

牛乳や乳製品の中に含まれる「乳糖(ラクトース)」を消化するために働く「ラクターゼ(乳糖分解酵素)」が、小腸で産生されないことによって起こる、腹部の膨満感、ゴロゴロする、腹痛、下痢、吐き気などの不快な症状が表れる状態のことです。

 乳糖は、自然界ではヒトを含む哺乳類の乳にのみ含まれる糖で、カルシウムやマグネシウム、鉄分の吸収を高める働きもあります。単糖のガラクトースとグルコース(ブドウ糖)が結合した「二糖類」であり、二糖類には、前回ご紹介した砂糖や麦芽糖などがあります。また、乳糖は小腸で産生されるラクターゼによって、ガラクトースとグルコースに分解されないと、体内でエネルギー源になりません。

 哺乳類が赤ちゃんの頃は食べ物が母乳しかないため、小腸でたくさん産生されるラクターゼですが、離乳後、母乳以外からの食事に切り替わってゆくと、次第にラクターゼの産生は減っていくため、離乳後の子どもから大人にかけて乳糖不耐の症状が表れることがあるようです。

 また、ラクターゼの減少は哺乳類全般に見られることで、ヒトでは酪農が盛んな北欧系の人やアメリカ白人系移民などを除いて、世界中のほとんど(人類の約3分の2)の健康な成人は、大量の乳糖を消化できないため、実は、正常な状態が「乳糖不耐症」なのです。日本人を含むアジア系では、なんと約95%以上が乳糖不耐症というデータもあります。

牛乳を飲んでおなかがゴロゴロする原因

牛乳アレルギーとの違いは?

牛乳アレルギーは、小麦や卵と同じくらい発症の多い食物アレルギーのひとつです。乳糖不耐症は、チーズなどの一部乳製品は食べることができますが、牛乳アレルギーは一切食べることができません。その主な原因はたんぱく質に含まれるカゼインによるもので、カゼインには耐熱性があるため、加熱してもタンパク質の構造はほとんど変化せず、アレルギーの起こしやすさが変わらないため、チーズやヨーグルトなど、発酵された乳製品も注意が必要になります。

不快な症状は大腸で分解されるときに起こっていた

小腸で分解されなかった乳糖はそのまま大腸へ進んでいきます。大腸にはさまざまな種類の細菌がバランスを取りながら腸内細菌叢(腸内フローラ)として生息していますが、中には乳糖をエサにする善玉菌のビフィズス菌や乳酸菌などの細菌がいます。この腸内細菌の働きで、乳糖から乳酸や酢酸、酪酸、プロピオン酸などの短鎖脂肪酸が生成され、栄養として吸収したり腸内を適度な酸性にすることで、有害な細菌の繁殖を抑え、整腸作用をもたらしています。

 しかし、小腸で分解できなかった乳糖が大腸の腸内細菌によって代謝されると、水素やメタンなどのガスを大量に発生させるため、腸の蠕動運動を強めすぎてしまい、腹部の膨満感、ゴロゴロする、腹痛などの不快な症状につながると考えられています。さらに乳糖は浸透圧の関係で、分解されずに大腸内に存在すると粘膜細胞から水を大腸内に呼び込むため、便になるはずの内容物の固形化がうまくいかず、結果的に下痢が起きると考えられています。 

  日本人のほとんどがラクターゼを持たない人が多いことは事実ですが、近年の研究により、乳糖が小腸で分解されない場合でも、大腸に存在する乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌が多い人、つまり腸内環境が整っている人は、乳糖が良く分解され、不快な症状が出にくいことが明らかになってきました。つまり、不快な症状が出ていた人も、腸内環境が整えば不快な症状が改善される可能性があるということになります。

善玉菌が多いと牛乳を飲んでもおなかがゴロゴロしにくい

カルシウムの摂取は、ヒトの健康を保つためには欠かせません。とはいえ不快な症状を我慢して牛乳を飲み続ける、あるいは不快な症状が出ないまで腸内環境を整うのを待つといったことは現実的ではありませんし、何も牛乳だけがカルシウム源ではありません。

 そこで参考になるのが、動物製品を摂れないヴィーガンのカルシウム摂取の仕方です。牛乳を要さない方法として有効であり、乳糖不耐症を抱える私たち日本人にも適しています。

ヴィーガンのカルシウムの摂り方

ご存じの通り、新しい骨や歯の細胞をつくり、神経やホルモンの働きにも作用するカルシウムですが、豊富なイメージで真っ先に思い浮かぶのは、牛乳などの乳及び乳製品や魚類だと思います。しかし、動物由来であるため、ヴィーガンは摂取することができません。ですが、カルシウムは植物性の食品にも豊富に含まれる栄養素です。どの植物性食材にカルシウムが含まれているかを把握することが大切です。そこで、身近なスーパーなどで簡単に購入できる食材の中からオススメを選んでみました。

ヴィーガンでも食べられるカルシウムを含む食品

ヴィーガンでも食べられるカルシウムを含む食品

このように、カルシウムは乳製品や魚類のほか、野菜類の葉物、豆類、海藻類、ドライフルーツなどに含まれています。しかし、もともと食事からのカルシウムの吸収率が悪い上に、体内への吸収率は「乳・乳製品>小魚・海藻>野菜・豆類」の順となっています。毎日、カルシウムを含む食品を積極的に取り入れるように心がけていただきたいと思います。

 さらに、カルシウムはビタミンDと一緒に摂ることで吸収率を促進します。ビタミンDもカルシウムと同じように骨の健康を保つために必要な栄養素の一つです。豊富に含まれる食品は主に魚類ときのこ類であるため、ヴィーガンはきのこ類でしかビタミンDが摂れません。ビタミンDは脂溶性なので、脂質を含む動物性食品から摂取したほうが吸収されやすいのですが、きのこ類でも炒め物や揚げ物にして油とともに摂取することで吸収率を上げることができます。

 また、ビタミンDは太陽の光に含まれる紫外線(UVB)を浴びるだけでも生成されます。やり方は日焼け止めを塗らずに手や足、顔に日の光を浴びることです。一般的なガラスではビタミンDの生成に必要な紫外線はカットしてしまうため、ベランダや庭など家の外に出て日の光を浴びる必要があります。もちろん、紫外線の浴びすぎはシミやしわの原因にもなるため、日の光を浴びすぎず、皮膚が赤くならない程度に注意してください。

ビタミンDの生成のための日光浴

さいごに

カルシウムの豊富な乳及び乳製品や魚類などが食べられないヴィーガンは、カルシウム不足なのではと思われがちですが、このように植物性食品にもカルシウムが含まれているので、きちんと考えて食べれば問題がないということがお分かりいただけたかと思います。

また以前より、日本人はカルシウムの摂取不足が指摘され続けておりますので、乳及び乳製品や魚類だけではなく、植物性食品に含まれるカルシウムに注目し、摂り入れるようにしてみませんか。